最近増えている味覚障害や味覚異常、歯科医院で相談した方が良いことも

最近増えている味覚障害や味覚異常、歯科医院で相談した方が良いことも
 

最近テレビなどのメディアで、味覚障害の患者数が激増していることが報道されました。味覚障害を患う方の数は、1990年の約14万人から2019年には約28万人となり、実に30年で2倍になっています。さらに潜在的な患者数は約3000万人とも言われ、こうなると日本人のおおよそ4分の1は味覚障害や味覚異常ということになります。

 

味覚障害や味覚異常の患者は、多くは高齢者ですが、若い方にも広まっています。欧米型の食文化が広まり、味の濃い食品や極端に辛い食品を好んで食べたり、偏食や孤食が増えるなど、現代の日本人は以前とは違う食生活を送るようになりました。

 

味覚障害になると、味付けが濃くなり、塩分や糖分を取り過ぎてしまい、健康を損なう原因にもなります。味覚障害は、単に味が分かりにくくなっただけと思わず、適切な治療を受けることが望ましいと言えるでしょう。歯科医院へのご相談も役に立つケースもありますので、今回は味覚障害をテーマにお話しします。

味覚について

人の感じ取る味は5種類

人の感じ取る味は5種類
 

まず、味覚障害の解説の前に、そもそも味覚とは何かについてお伝えしましょう。私たちは食べ物や飲み物から様々な味を感じ取りますが、その味の種類は、大きく分けると「甘み」「塩辛さ」「苦味」「酸っぱさ」「旨み」の5つになります。

 

ここに「辛さ」がないのを不思議に思う方もいらっしゃるかもしれませんね。実は辛さは味覚ではく、温覚(おんかく:高い温度の刺激を受けると温度上昇を感じる感覚)と考えられています。辛いものを食べると、お口の中が熱く感じるのはこのためです。

味覚を感じる味蕾(みらい)

味覚を感じる味蕾(みらい)
 

舌の表面を見てみると、小さなぶつぶつが無数にあります。このぶつぶつの中には、味蕾(みらい)という器官が存在しています。

 

味蕾の中には、味細胞という味を感じる細胞があり、神経がつながっていて、味細胞が感じ取った味の情報を脳に伝えます。味蕾という器官は、味を感じ取るセンサーというわけですね。

 

なお、味蕾は舌の表面だけでなく、舌の奥や上顎の奥にもあり、お口の中で広く味を感じるようになっています。

味覚障害とは?

味覚障害とは?
 

では、今回のテーマである味覚障害についてお話ししていきしょう。味覚障害とは、味を感じにくくなったり、分からなくなったりするなど、味覚に何らかの異常が生じた状態です。全ての味がわからないこともあれば、特定の味覚だけわからない、味が変になるなど、その症状は多様です。冒頭で触れた味覚異常もまた、味覚障害の一種です。

 

そして前述のとおり、味覚障害の患者数は増加傾向にあり、1年間に約30万人にも上る状態になってしまいました。患者数の内訳では、高齢者の割合が多く、男女比では女性の方が多い傾向があります。注意してください。

味覚障害の具体的な症状

味覚障害の症状は様々ですが、主な味覚障害の症状について挙げておきましょう。

 
味覚減退味は感じるが、何の味かが分からなくなる。
味覚消失味そのものを感じることができなくなる。
味覚錯誤、異味症苦いものを甘いと感じたり、苦味を塩味と感じたりするように、味を間違えて感じてしまう。
味覚過敏薄味を濃い味と感じてしまう。
解離性味覚障害4~5種類ある味のうち、1つ、もしくは2つくらいの味が分からなくなる。残りの味は感じることができるのが特徴です。
異常味覚口に何も入っていないのに、味を感じる。

味覚障害の原因

上記のように、色々な症状のある味覚障害ですが、その原因は詳しくは分かっていないところも多く、現在は、おおよそ以下のものが原因として考えられています。単独で味覚障害を起こしているケースもあれば、いくつかの原因が重なっていることもあります。

加齢

味覚障害の原因:加齢
 

オーラルフレイルのコラムでお話ししたように、口腔機能はどうしても年齢とともに衰えていきます。そして味を感じ取るセンサーの役割を果たす味蕾の数も、年齢を重ねるにつれ、減少してしまうのです。

 

20歳までの方と後期高齢者の75歳以降の方を比べると、味蕾の数は30〜40%ほど減ると言われており、味蕾の減少に伴って味も感じにくくなるので、味覚障害が起きやすくなります。

ドライマウス

味覚障害の原因:ドライマウス
 

口腔ジェル・口腔保湿剤の使い方のコラムでもお伝えしたドライマウスも味覚障害の原因になります。

 

ドライマウスもまた、加齢とともに高齢者に生じやすい症状の一つですが、唾液が減少し、お口が乾燥した状態になると、口腔内の粘膜が傷つきやすくなります。粘膜が傷つくと炎症が起こり、その炎症が味蕾にも影響すると、味を正確に感じられなくなってきます。

亜鉛不足

味覚障害の原因:亜鉛不足
 

味を感じるために不可欠な味蕾は、常に新陳代謝を繰り返している状態になっています。そして、新しい味蕾を作り出すのに必要な栄養素は、必須ミネラルの一つである亜鉛です。

 

亜鉛は牡蛎やレバーなどに多く含まれ、食べ物を通して体に取り込むのですが、亜鉛不足になると新しい味蕾が作られにくくなるので、味蕾の数が減り、味覚障害の原因になります。亜鉛のほか、鉄分やビタミンの不足でも味覚障害になることがあります。

薬の副作用や放射線障害

味覚障害の原因:薬の副作用
 

高血圧治療のための降圧剤や糖尿病の薬、抗うつ剤や抗菌薬などの副作用で味覚障害を起こすこともあります。

 

また、放射線治療を受けた場合、放射線の照射範囲にお口が入っていると、口の粘膜に炎症が起こります。ドライマウスの箇所で説明したのと同様に、この炎症によって味覚を感じにくくなるケースがあります。

糖尿病や腎臓病などの疾病

味覚障害の原因:糖尿病や腎臓病などの疾病
 

様々な病気が味覚障害に関係していることも明らかになってきています。例えば、糖尿病が悪化すると、神経が傷つき、味覚の情報が脳に伝わりにくくなって味覚障害になることがあります。

 

腎臓病になると、尿に含まれる亜鉛が増えて、亜鉛が体外に排出されて亜鉛不足になってしまいます。舌炎(ぜつえん:舌に起きる炎症)や舌苔(ぜったい:舌に付着する白い垢のようなもの)も味蕾の炎症の原因となり、味を感じにくくなります。

味覚障害の治療法

味覚障害の治療は、味覚障害の原因を特定し、その原因に合った治療を行うのが大切です。

薬物治療

味覚障害の治療:口腔ジェル
 

味覚障害は亜鉛が引き金になることも多いので、薬物治療では主に亜鉛製剤を処方します。ドライマウスの方には、唾液を分泌させる薬や、口腔ジェルなどによりお口を潤し、味蕾の細胞を守ります。

 

口腔ジェルについては、先ほどご紹介した口腔ジェル・口腔保湿剤の使い方のコラムで、詳しい種類や使い方について解説していますので、併せてご参照ください。

食生活の見直し

味覚障害の治療:食生活の見直し
 

味覚障害を起こしている方は、食生活を見直してみる必要があります。偏食などにより亜鉛や鉄分、ビタミンが不足している場合は、それらをきちんと摂ることを心がけましょう。

 

具体的には、牡蠣、豚レバー、牛肉(赤身)、チーズ、ナッツ、海苔、わかめ、ココア、抹茶など、亜鉛をたくさん含む食品を積極的に食べるようにします。

歯科治療が有効なことも

歯科との直接的な関係は少ないようにも思える味覚障害ですが、お伝えしてきたように、口腔内の状態が原因になることもあるため、歯科医院での治療は有効な選択肢の一つになることがあります。

歯周病治療

味覚障害の治療で歯科治療が有効な場合:歯周病治療

歯周病が悪化すると、歯茎から膿みが出ることがあり、これを苦みとして感じるようになります。先述の分類としては、口の中に何も入っていないのに味を感じる(自発性)異常味覚に該当し、歯周病治療を行う必要があります。

入れ歯の調整

味覚障害の治療で歯科治療が有効な場合:入れ歯の調整
 

入れ歯の合いが悪く、舌に炎症が起こると、味蕾が傷つくことがあります。このような場合は、歯科医院で入れ歯を調整し、舌に当たらないようにします。

舌苔への対処

味覚障害の治療で歯科治療が有効な場合:舌苔への対処
 

お伝えしたように、舌苔がついていると味覚を感じにくくなりますが、舌ブラシなどを使い、自己流で落とそうとすると、強くこすり過ぎて舌の粘膜を傷つけてしまう恐れもあります。舌苔が多い方は、歯科医院で診てもらうことをお勧めします。

唾液腺マッサージ、機能的口腔ケア

味覚障害の治療で歯科治療が有効な場合:唾液腺マッサージ、機能的口腔ケア
 

年齢を重ねると、唾液を作り出す唾液腺(だえきせん)の働きも弱くなり、ドライマウスになりやすくなってしまいます。詳しい方法は厚生労働省のページにも解説がありますが、この唾液腺を指でマッサージして刺激すると、唾液が出やすくなります。

 

また、訪問歯科での口腔ケアの大切さのコラムでもお伝えしたように、歳を重ねてもお口の状態を正常に保つには、機能的口腔ケアが重要です。口腔周辺の筋力低下を防ぐよう、総入れ歯についてのコラムにあるパタカラ体操などで、お口周りの筋力アップを心がけてください。

味覚が変わってしまったと感じた時は

今回は、味覚に異変が起きる味覚障害について解説しました。ご自身の味覚が変わってしまい、味覚障害が疑われる時は、耳鼻咽喉科や内科などを受診することをお考えになる方も多いと思いますが、歯科の担当領域が原因になっていることもあります。

 

ポラリス歯科・矯正歯科は、様々な知見を持つ医療法人社団 千仁会の専門医が在籍し、患者さんの口腔ケアを総合的にサポートします。味覚障害が気になる方や、口腔内の状態が心配な方は、当院でぜひご相談ください。