「消毒」だけじゃダメ?歯科器材に欠かせない「滅菌」とは

「消毒」だけじゃダメ?歯科器材に欠かせない「滅菌」とは
 

新型コロナウイルスが猛威を振るった時期、皆さんも「感染対策」という言葉をさかんに耳にしたのではないでしょうか。

 

この感染対策は、コロナウイルスの予防に限った話ではなく、安全な歯科治療を行うためにも、とても大切なものなのです。

 

もちろんポラリス歯科・矯正歯科は、クリーンな院内環境で、徹底した衛生管理を行っていますが、どんな患者さんも、清潔な環境で治療を受けたいという想いをお持ちのはずですよね。

 

そんな時、注目していただきたいのが、今回のテーマである、治療の際に使用する歯科器材の滅菌(めっきん)です。直接患者さんのお口の中に触れるものですから、歯科で用いる機材の衛生面には、細心の注意を払う必要があるのです。

滅菌と消毒の違い

滅菌と消毒の違い
 

滅菌という言葉はご存知なくても、消毒なら聞いたことがある方は大変多いのではないでしょうか。両者とも有害な菌をなくすようなイメージですが、実は滅菌と消毒は全く異なる概念です。

 

滅菌とは「病原性の有無に関係なくあらゆる生物を殺滅(さつめつ:死滅させること)、もしくは除去すること」をいいます。一方、消毒とは「病原性のある生物を害がない程度まで減らすこと、もしくは感染力を奪うこと」を指します。

 

つまり、消毒では病原性のある微生物が生き残るのに対し、滅菌なら全ていなくなるということですね。

滅菌の大敵は、加熱しても死なない芽胞菌(がほうきん)

加熱しても死なない芽胞菌
 

多くの生物は100度以上の高温の環境下では生きていけません。ところが、中には100度を超えても死なない細菌がいます。

 

それは芽胞(がほう)と呼ばれるカバーを作り出す細菌です。芽胞菌の例としては、バチルス属のセレウス菌、クロストリジウム属に分類されるウエルシュ菌やボツリヌス菌といった、食中毒を引き起こす細菌があります。もちろん、これらの芽胞を作り出す細菌も殺滅しなくては滅菌はできません。

 

より温度を高くすれば芽胞菌も殺滅できますが、かといってあまり温度を高くしすぎると、プラスチック系の歯科器材は溶けてしまいます。この厄介な芽胞菌をいかに無くすかが、滅菌を成功させるカギになるのです。

滅菌はなぜ必要なのか?

使い捨て器材だけでは治療ができない

使い捨て器材だけでは歯科治療ができない
 

では、滅菌はなぜ必要なのでしょうか。例えば、歯科治療に使う機材を全て使い捨てにすれば、その機材は他の患者さんには使われることがないので、他の人から細菌やウイルスをうつされる心配はなくなります。

 

しかし、使い捨ての歯科器材だけで全ての治療ができるのなら良いのですが、残念ながらそうはいきません。歯科治療の現場では、再使用する器材もたくさんあります。

再使用する器材のリスク

再使用する器材のリスク
 

上で述べたように、再使用する器材には感染症のリスクがつきまといます。他の方が何らかの感染症を持っていたなら、その方に使った器材を使うと、他の方に感染症をうつしてしまう可能性があります。

 

B型肝炎やC型肝炎、HIVや梅毒など明らかになっている病原体だけでなく、未知の病原体もいるかもしれません。

 

一度使った器材には、すでに明らかになっている病原体だけでなく、私たちが知らない未知の病原体も含み、あらゆる感染症を広げてしまうリスクがあるのです。

感染ルートを断つことが求められる

感染ルートを断つことが求められる
 

歯科治療で再使用した器材から、何らかの病原体が広がる可能性を低くするためにどうすれば良いのか?その答えが滅菌になるのです。消毒ではありません。

 

冒頭でもお話ししたように、消毒は、あくまでも細菌の数を減らしたり、感染力を除去したりするだけなので、細菌自体がいなくなるわけではないからです。

 

さらに、未知の病原体がいたとすると、その病原体への有効な消毒方法はわかりません。しかし、滅菌の処理を行えば、全ての微生物を殺滅できます。

 

全ての微生物をなくしてしまえば、その器材から感染が広がることは決してありません。感染を広げないようにするためにこそ、滅菌が大切なのです。

滅菌の方法

ではここからは、具体的な滅菌方法をご紹介していきましょう。

オートクレーブ

クラスBオートクレーブ滅菌器
 

歯科で最も広く利用されている滅菌方法が、取り扱いが簡単で、残留毒性のないオートクレーブ滅菌です。オートクレーブは高圧蒸気滅菌器とも呼ばれ、器材を2気圧、121度で15~20分加熱し続けて滅菌します。この条件では、芽胞菌も滅菌できます。

 

このオートクレーブには、クラスN、クラスS、クラスBの3種類あります。一見するとクラスSが最も高性能に思われるかもしれませんが、オートクレーブの最高規格はクラスBです。

 

クラスBには真空ポンプが備わっており、オートクレーブ内部を真空状態にして滅菌します。その他のクラスが苦手とする内部に空洞がある器材も、クラスBなら滅菌が可能です。

 

ただ、オートクレーブは高熱を加えるため、熱に弱いプラスチック製品や精密機械、燃える可能性がある紙や布製品などには使用できません。

プラズマ滅菌

プラズマ滅菌器
 

プラズマ滅菌は、正しくは過酸化水素低温プラズマ滅菌という滅菌方法です。真空状態にしたところに過酸化水素を注入して高周波を当て、過酸化水素をプラズマ化し、このプラズマ化した過酸化水素の働きで、微生物を滅菌します。

 

プラズマ滅菌は、滅菌にかかる時間は30分にも満たないほど短く、さらに55度未満の低温滅菌なので、短時間の滅菌後に、すぐに機材を使用できるという利点があります。

 

真空状態にするので、先ほどのオートクレーブのクラスB同様、内部が空洞の器材も滅菌できます。一方で、プラズマ滅菌の機械は高価なのが難点です。

ガス滅菌

ガス滅菌器
 

ガス滅菌は、エチレンオキサイドガス(EOG:酸化エチレンガス)を使った滅菌方法です。ガス滅菌は、耐熱性のないプラスチック製品やゴム製品も滅菌できるというメリットがあります。

 

しかし、滅菌にかかる時間がとても長く、ガスが環境を汚染し、周囲の人に悪影響を及ぼす可能性があります。このため、一般的な歯科クリニックでは使いにくい滅菌方法です。

確かな滅菌処理で安心の治療環境を

確かな滅菌処理で安心の治療環境を
 

今回は、歯科器材の滅菌についてお話ししました。歯科器材をどのように管理するかは、患者さんが直接目にしやすいものではないだけに、初めて知った方も多いかと思います。

 

お話ししたように、歯科治療で使う器材のうち、再使用するものについては、消毒ではなく、滅菌処理することがとても大切です。それは治療を受ける方、治療を行う医療者双方の安全に欠かせないものなのです。

 

ポラリス歯科・矯正歯科は、徹底した衛生管理を行い、クリーンな環境での治療をご提供いたします。感染症を不安に思う方や、治療環境の清潔さを重視される方も、安心してご相談ください。