予防歯科・メンテナンス
今注目されているMFTとは?
今、子どもたちの間で問題となっているのが、お口をポカンと開けてしまう癖です。文字どおり「お口ポカン」「ポカン口」などと呼ぶことがありますが、専門的には口唇閉鎖不全症(こうしんへいさふぜんしょう)といいます。
お口をポカンと開けていることが多いと、口腔内が乾燥して虫歯や歯周病にかかりやすくなったり、歯並びや噛み合わせが悪くなったりと、様々な弊害が生じます。
少子高齢化に伴う歯科治療ニーズの変化
前回、オーラルフレイルについて詳しく解説しましたが、日本は急速な高齢化だけでなく、急速な少子化も進んでいます。歯科医療の世界でも、少子高齢化に伴う患者層の変化により、治療のニーズも変化してきました。具体的には、以前は治療に重きが置かれていたのですが、近年は予防歯科や機能回復を重視するようになってきています。
口腔機能を正常に保つことの大切さ
現在、老若男女問わず、口腔機能低下症や口腔機能発達不全症が問題視されています。これらは一言でいうとお口の機能が未発達、あるいは低下している状態のことで、上述の「お口ポカン」や「ポカン口」も該当します。
このような背景を踏まえ、「口腔機能を正常に保つこと」がより重要性を増してきました。そして口腔機能の回復・獲得の訓練として行われているのが、今回のテーマであるMFT(Myofunctional Therapy:口腔筋機能療法)なのです。
MFTとは
再度お伝えしますが、MFTとはMyofunctional Therapyの頭文字を取ったものです。Myofunctionalとは筋機能の~という意味で、日本語訳すると筋機能療法となりますが、特に口腔周囲の動きには、非常に多くの筋肉が関係するため、口腔筋機能療法と呼ばれます。
歯を基準として考えると、口腔周囲は筋肉で覆われている組織ですから、MFTは歯の周りにある口腔関連の筋肉について、その機能を獲得・改善する訓練と言えるでしょう。
MFTの目的
MFTは本来、不正咬合(ふせいこうごう:悪い歯並び)に関与する低位舌(ていいぜつ)や舌癖(ぜつへき:日常的に無意識に行ってしまう舌の癖のこと)など、口腔周囲筋の機能異常に対して行われていました。低位舌については、滑舌が悪い?それって低位舌(ていいぜつ)が原因かものコラムで詳しく解説していますので、併せてご参照ください。
このような症状に対し、MFTによって歯に加わる筋圧を適切にし、美しく、機能的な歯並びを得るのが本来の目的です。
しかし、冒頭で触れましたが、近年の少子高齢化に伴い、MFTは小児歯科や矯正治療における効果に加え、高齢者の口腔機能の低下対策にも有用ではないかと注目されてきたのです。
結果として、MFTはお口周りの筋肉の働きを正常化することに加え、理想的な口腔機能を獲得することを目指すことが目的になってきています。
MFTの大切な三つの要素
MFTには、重要な三つの要素があります。
- 口腔周囲の筋肉それぞれの訓練
- 咀嚼(そしゃく)と嚥下(えんげ:食物を飲み込むこと)、発音と発声、呼吸の訓練
- 安静時の舌や唇の位置を整える訓練
最も大切なのは、三番目に挙げた安静時の正しい舌や唇の位置関係です。舌や唇を正しい位置に保つことで、歯並びや口腔機能に大きな影響を与えることが報告されています。
この正しい位置関係というのは、分かりやすく言うと「鼻呼吸をし、舌は上顎に接しており、上下の歯は離す」ということです。何もしていない時、口の中の上下の歯は噛んでおらず、少し離れているのが正常で、これを安静時空隙(あんせいじくうげき)といいます。
普段リラックスしている段階で、この状態が保てていない場合、MFTによる訓練を行った方が良いかもしれません。ご自身やお子様はどうか、ぜひ一度見てみてください。
MFTの効果
具体的には後述しますが、MFT自体は行う訓練に派手なものはありません。ある種の筋トレと思っていただければ良いでしょう。
場合によっては、道具を使うこともありますが、ほとんどのものは道具を必要とすることなく行えます。しかし、それでもMFTの効果は大きく、侮ってはいけません。
歯並び・噛み合わせへの効果
歯並びが悪くなる原因は様々です。その中には、口腔周囲の筋肉が原因になることも少なくありません。例えば、指しゃぶりや前述の舌癖、口呼吸などが代表的なものです。
このような場合、適切にMFTを行うと、正しい歯並びに近づけていくのに役立ちます。理想的な噛み合わせを実現することにもつながります。
矯正治療と併用することの効果
MFTは矯正治療と併用されることも少なくありません。矯正によって獲得した美しい歯並びが、口腔周囲の筋肉の動きによって崩れてしまうのを予防したり、治療効果を高めたりすることができます。
オーラルフレイル、その他疾患への効果
そのほかにも、前回のコラムでお伝えした、口腔周囲の筋肉が衰えていくオーラルフレイルや、睡眠時無呼吸、歯周疾患など大人の病気に対しても効果があると報告されています。
MFTの具体例
では実際にMFTの具体例をご紹介しましょう。滑舌が悪い?それって低位舌(ていいぜつ)が原因かものコラムでは、スポットポジション、ポッピング、スティックティップを挙げましたので、今回はそれ以外のものをご紹介します。
ボタンプル
ボタンプルは、唇を閉じる力が弱っている方におすすめです。用意するものはボタンとたこ糸のみです。
奥歯を噛んだ状態で、前歯と唇の間にボタンを入れ、外側からたこ糸でボタンを引っ張ります。ボタンが口からこぼれないように、唇に力を入れて保持します。これを繰り返します。
ポイントは、ボタンを唇の真ん中に位置付けることと、唇の力のみでボタンを保持することです。いつもお口をポカンと空けてしまう癖のあるお子さんにとって、良い訓練になります。
リップトレーサー
できる限りお口を大きく開けた状態で、舌を右側の口角から上唇をなぞるようにゆっくりと反対側の口角に移動させます。この時、10秒以上かけることを心がけると効果がアップします。
左側の口角に到達したら、今度は逆に右側に戻っていきます。これを何回か繰り返します。
MFTを活用して、正常な口腔機能を手に入れよう
今回はMFTについて解説しました。筋力が不足することによる口腔機能の低下は、小さなお子さんだけでなく、大人にも様々な影響をもたらすことをご理解いただけたかと思います。
日本口腔機能療法学会もMFTの重要性を説いていますが、お口周りの筋肉を正常に保つことは、確かな口腔機能を維持するためにとても大切なことです。
ポラリス歯科・矯正歯科は、通常の歯科診療だけでなく、患者さん一人一人に合ったお口周りのケアも積極的に行っています。お子さんがポカンと口を開けてしまう、オーラルフレイルによるお口の筋力低下が気になる…そんな皆さんも、お気軽にポラリス歯科・矯正歯科にご相談いただければと思います。