歯の治療全般
滑舌が悪い?それって低位舌(ていいぜつ)が原因かも
皆さんは、ご自身や話しているお相手の滑舌(かつぜつ)が気になったことはありますか?
小さなお子さんが相手なら、子ども特有のちょっと拙い喋り方に、ほっこりしてしまう方もいるでしょう。ただ、大人になっても滑舌が良くならなければ、不安になるかもしれません。
実際、滑舌の悪さに悩みを抱えている方も多くいらっしゃいます。特に最近ではリモートによる打ち合わせもメジャーとなり、ご自身の滑舌が気になることも増えているようです。
そんな滑舌の悪さの原因の一つに、舌の位置が関わっていることをご存じですか?今回は、意外と知られていない滑舌と舌の位置の関係、また、それが歯にどのような影響をもたらすかについて、ご紹介します。
そもそも滑舌とは?
滑舌(かつぜつ)とは、放送業界用語で「話す際の発音や言葉がはっきりしており、滑らかであること。また、言葉をはっきり発音する舌や口腔周囲の動きのこと」を指します。ちなみに医学用語ではありません。
医学的に言葉を話すメカニズムを説明するなら、
- 口唇・舌・顎などの器官に、脳から指令が送られる
- 肺から空気を押し出し、声帯を振動させて声を作る
- 舌・口唇・顎などの筋肉、及び骨格を動かして音を作る(構音:こうおん)
となります。「滑舌が悪い」というのは、このメカニズムの最後にある構音が上手く機能していない状態を指します。
原因の一つは舌の筋力不足
上述のとおり、滑舌が悪くなるのは、舌・口唇・顎などの筋肉や骨格を上手く動かせないのが理由です。つまり、原因の一つとして、筋力不足が挙げられます。
特に歯科と関わりの深いものとしては、舌の筋力不足が該当します。そこで以降では、舌の筋力不足による低位舌(ていいぜつ)についてご説明しましょう。
低位舌とは
低位舌(ていいぜつ)とは、舌が口腔内の正常な位置よりも低い場所にあることをいいます。正常な舌の位置とは、舌の先端が上顎の前歯の裏側から少し奥に位置し、舌の表面が口蓋(こうがい:口の中の天井に当たる部分)に触れている状態になります。
それに対して、低位舌は、舌に力が入っていないために舌全体が盛り上がっておらず、舌と口蓋の間にすき間ができています。舌の先端は、前歯の裏側に当たっていたり、上下の前歯の間に挟んでいることもあります。
低位舌と滑舌の関係
低位舌は、冒頭でも触れた滑舌にも関係してきます。日本語のタ行、ナ行、ラ行は、口蓋に舌をつけて発音しますが、低位舌の場合は、舌の筋力不足により、上手く口蓋に舌をつけることができません。そのため発音が不明瞭になってしまうのです。
また、舌の筋力が不足している場合、口腔周囲の筋肉(口腔周囲筋)も弱い可能性が高くなります。こうなると、口蓋に舌をつけて発音するタ行、ナ行、ラ行以外の音も不明瞭になりやすく、大きな口を開けられずに、常に小声で話す癖がついていることもあります。
低位舌がもたらす悪影響
歯列不正が生じる
発育過程で低位舌が生じてしまうと、顎の大きさや歯並びにも大きな変化が現れます。ここは正しく歯科と密接に関連する領域と言えるでしょう。
顎の成長が未熟に
舌には、顎の成長を促進させる役割があります。舌がいつも口蓋に触れていることにより、下から押し上げる刺激が加わって、上顎骨(じょうがくこつ:上顎の骨)の成長を促します。
しかし低位舌の場合は、舌が口蓋に当たらないために刺激が加わらず、上顎骨の成長が不十分になります。こうなると、上の歯が並ぶスペースが狭くなり、歯がきれいに並びきれず、歯並びがガタガタ(叢生:そうせい)になってしまうのです。
反対咬合や開咬、空隙歯列も
また、低位舌の場合は、舌の先端が常に前歯部の裏側に当たっており、特に下の前歯を外側に向けて圧迫しやすくなります。
その結果、下の前歯が前方に傾いて反対咬合(はんたいこうごう:いわゆる受け口)になってしまったり、舌を常に上下の前歯で挟んでいる場合などは、開咬(かいこう:オープンバイト)という、奥歯で咬み合わせても、上下の前歯の間が空いてしまう歯並びになったりします。
そのほか、舌に歯が押されて歯が傾き、歯と歯の間にすき間ができてしまう、いわゆるすきっ歯(空隙歯列:くうげきしれつ)になることもあります。この場合は、歯と歯の間から空気が漏れてしまうので、サ行の音などがより発音しにくくなります。
軽度のすきっ歯(空隙歯列)であれば、以前お伝えしたポーセレンラミネートべニアやダイレクトボンディングで対応できることもありますが、様々な歯列不正が生じてくると、矯正治療の必要性も出てきます。
口呼吸
舌に力が入っていない低位舌の場合、舌の奥の部分が気道を塞いでしまい、息苦しさを感じやすくなります。そのため、常に口を開けて息をする口呼吸の習慣がつきやすくなります。
いくつかのコラムでもご説明しましたが、口呼吸をしていると、口腔内が常に乾燥しやすくなり、虫歯や歯周病のリスクが高くなります。そして、乾燥状態の口腔・喉には細菌やウイルスが直接入り込みやすく、感染症にもかかりやすくなってしまうので、注意しましょう。
また、口呼吸の方は睡眠中も口を開けているため、いびきをかきやすくなるのも特徴の一つです。目に見える変化としては、舌の側面が常に下の歯並びに当たっているので、舌の外周にギザギザとした歯型の跡が白く残っていることが挙げられます。
咀嚼が難しくなる
低位舌の影響で、舌や口腔周囲筋が上手く働かないことにより、咀嚼(そしゃく)が苦手でくちゃくちゃ音を立てて食べてしまったり、飲み込む際にむせやすくなったりします。
低位舌を治すには
冒頭でもお話ししたように、舌の筋力不足が低位舌の原因です。つまり、舌や口腔周囲筋を鍛えることが、低位舌を治すポイントになります。
MFT(Oral Myofunctional Therapy:口腔筋機能療法)
お子さんの場合は、正しい舌の位置や発音の仕方、筋肉の使い方を学ぶ必要がありますので、MFT(口腔筋機能療法)をおすすめします。
日本口腔機能療法学会がMFTについて解説していますが、小さなお子さんのお口周りの習慣や癖は、咬み合わせや歯並びにも影響します。具体的には、舌癖(ぜつへき:舌の癖のこと)や、指をしゃぶったり爪を噛んだりする癖、口呼吸や早食いなどが該当します。
特に舌癖がある場合は、舌の筋力が不足していることが多く、低位舌にもなりやすくなります(提携医院である町田歯科・矯正歯科でも、MFTについて解説してくれていますので、興味のある方は併せてご参照ください)。MFTによるトレーニングで、舌やお口周りを正常な状態に保つように心がけましょう。
MFTの具体例
では実際のトレーニング方法をいくつかご紹介しましょう。皆さんもご自宅などで試してみてください。
スポットポジション
平常時や嚥下(えんげ:飲み込むこと)時の正しい舌の位置を覚えます。
上顎の前歯の後ろ辺り、上図の位置(スポット)に、舌先を尖らせて5秒ほど触れるようにします。これを10回程度行いましょう。
ポッピング
舌小帯(ぜっしょうたい:舌の裏側にある筋のこと)を伸ばし、舌をしっかりと持ち上げる筋力を養います。
舌先はスポットにつけて、舌全体が口蓋に密着するように吸い上げます。この時、舌小帯を伸ばすことを意識してください。この状態を数秒ほど維持した後、口蓋をはじくようにポンと音を立てて離します。これを10回程度行います。
スティックティップ
舌先を尖らせるトレーニングで、舌の先端にきちんと力をかけられるようにします。
名称のとおり、スティック(アイスの棒などで構いません)を用意し、口の前に持ちます。舌先を尖らせたまま舌を出し、スティックに押し付けます。この時、スティック側からも押すようにしてください。数秒行ったら、スティックと舌を離し、口を閉じます。これを同じく10回ほど繰り返します。
いかがですか?いざやってみると、結構大変ではないでしょうか。それだけ舌をきちんと動かせる筋力というのは大切なのです。成人の方の場合、すでに顎の成長が止まっているので、お子さんに比べるとMFTの効果は出づらいのですが、低位舌が疑われる場合は、舌および口腔周囲筋のトレーニングを心がけてみてください。
お口のトータルケアはポラリス歯科・矯正歯科に
今回は低位舌についてご説明しました。滑舌の悪さが気になるという方は、低位舌の可能性もあることがお分かりいただけたかと思います。
もちろん、舌の形態異常や構音障害(こうおんしょうがい:音を作り出す器官やその働きに異常があること)の場合もあるので、原因の特定には、きちんとした検査が必要です。
ポラリス歯科・矯正歯科では、多くの専門医が在籍する医療法人社団 千仁会ならではのチーム医療で、患者さん一人一人に合ったお口のトータルケアを提供いたします。お口に関して気になることがございましたら、ポラリス歯科・矯正歯科に何でもお気軽にご相談ください。