歯の治療全般
薬剤耐性菌ってなに?

歯科治療では、必要に応じて様々な薬品を使用します。なかでも使用頻度が高いのが抗菌薬(化膿止め、腫れ止め)と鎮痛薬(痛み止め)です。
特に抗菌薬は使用頻度が多いことから、歯科治療にとって欠かせない薬と言えるでしょう。しかし昨今、抗菌薬が効かない薬剤耐性菌という細菌の存在が問題となっています。そこで今回は、そんな薬剤耐性菌についてご紹介します。
薬剤耐性菌とは

薬剤耐性菌は英語ではAntimicrobial resistant bacteriaと表記し、薬剤耐性はAntimicrobial Resistanceを略してAMRと呼ばれます。
少し難しい横文字が並んでしまいましたが、薬剤耐性菌とは、分かりやすく言うと「ある抗菌薬に耐性がある」、つまり「抗菌薬が効かない菌」のことです。
「菌」は細菌のことですが、抗ウイルス薬が効かないウイルスも存在することから、ここでは抗菌薬や抗ウイルス薬が効かない細菌やウイルスをまとめて「薬剤耐性菌」として表記します。
薬剤耐性の仕組み
なぜ抗菌薬が効かなくなるのでしょうか?その仕組みは3つあると考えられています。
薬剤を分解する

抗菌薬が薬剤耐性菌に分解されると、抗菌作用の根本となる分子構造がなくなります。その結果、抗菌薬の抗菌作用が効かなくなると考えられます。
薬剤の作用を及ばなくさせる

抗菌薬は、細菌を攻撃して菌の活動を阻害します。この攻撃点を作用点といいます。抗菌薬は、細菌のDNAを合成するのに欠かせない酵素や、細菌の生存に関わる酵素などを狙って攻撃します。
薬剤耐性菌は、こうした酵素の構造を変えることで、攻撃を回避してしまいます。すると、抗菌薬の作用点が失われるため、抗菌薬が効かなくなるのです。
作用点への経路を阻害する
細菌を攻撃する作用点において、細菌が経路への侵入を妨害するものもあります。例えば、抗菌薬が細菌内部に入る道を遮断したり、抗菌薬が細菌内部に侵入できたとしても、作用点に達するまでに排出させるなどです。
このようになると、抗菌薬が作用点に届かなくなるので、抗菌作用が発揮できなくなります。
薬剤耐性化を獲得する仕組み
続いて、どのように細菌が抗菌薬に対する耐性を獲得するのか、その仕組みを解説します。
突然変異

細菌も私たち同様、生きていくのにDNAが必要です。突然変異は、何らかの理由によって細菌のDNAの配列が変わり、薬剤耐性を獲得するという仕組みです。
例えば、細菌の細胞壁を作る遺伝子が変化して、少しずつ抗菌薬への耐性値が上昇し、最終的には薬剤耐性菌になるというパターンです。
遺伝
遺伝という言葉を聞くと、一般的には親から子へ受け継がれる現象を想像しますよね。しかし、薬剤耐性化における遺伝は「他の細菌から耐性遺伝子が入り込む」ということを意味します。
私たちの世界では、他人の遺伝子が自分に入り込むことは考えられませんが、細菌の世界では珍しいことではありません。とても不思議な現象ですね。
誘導

誘導とは、表面化していない耐性遺伝子が薬剤の投与によって刺激を受け、耐性遺伝子が活性化するという仕組みです。
薬剤耐性菌のトリビア
抗菌薬の登場前から薬剤耐性菌は存在していた?

薬剤耐性菌と聞くと、抗菌薬の登場に伴って誕生したように思われるかもしれません。しかし、耐性遺伝子自体は抗菌薬の登場前から存在していたようです。
実際、抗菌薬の使用歴がない未開の人種からも、抗菌薬の薬剤耐性菌は見つかっています。
発見された最も古い薬剤耐性遺伝子はいつのもの?

カナダにある永久凍土から、薬剤耐性遺伝子が発見されました。永久凍土とは、ずっと凍りついている土地のことです。
その永久凍土は、3万年前から凍っているそうです。つまり、薬剤耐性遺伝子は少なくとも3万年前から存在しているということになります。
では薬剤耐性遺伝子はいつから存在しているの?

3万年前の永久凍土から見つかった薬剤耐性遺伝子。では、いつ頃から存在しているのでしょうか?
耐性遺伝子は、8億~2億年くらい前から存在していると考えられています。恐竜が誕生する前から存在しているなんて驚きですね。
抗菌薬がないのに、なぜ耐性遺伝子が生まれたの?

抗菌薬がない時代に、どうして薬剤耐性の遺伝子が生まれたのでしょうか。現在使用されているほとんどの抗菌薬は、土壌の中にいる放線菌という細菌から作られていますが、その放線菌は、自分自身が持っている抗菌物質によって自滅しないよう、放線菌自身が耐性遺伝子を持っています。
それだけでなく、他の放線菌の抗菌物質から攻撃されないように耐性遺伝子を持っていることもあります。こうして薬剤耐性遺伝子を獲得し、薬剤耐性菌へと進化していったと考えられています。
歯科治療の進歩のために

歯科治療では、智歯周囲炎(ちししゅういえん:親知らず周囲の炎症)や歯周炎の消炎、抜歯後の感染予防など、多くの場面で抗菌薬が使用されます。今でこそ、虫歯や歯周病によって人が亡くなることはほとんどなくなりましたが、実は抗菌薬が開発されるまでは命に関わる病気だったのです。
抗菌薬は、虫歯や歯周病をある意味で「安全な病気」に変えました。一方で、薬剤耐性菌はその流れを逆行させる「危険な細菌」だと言えます。
私たち歯科医師は、薬剤耐性菌を増やさないように、抗菌薬の適切な使用を心がけています。そして、医療法人社団 千仁会の専門医が多く在籍するポラリス歯科・矯正歯科は、北海道大学歯学部臨床教授を務める千田理事長の下、使用する薬剤はもちろん、常に先進的な歯科治療へのキャッチアップを行っています。
投薬や抗菌薬の使用についてもきちんとお伝えいたしますので、ご質問やご相談がある方は、札幌駅北口すぐのポラリス歯科・矯正歯科にお気軽にお問い合わせください。