世界初の「歯生え薬」~無歯症治療のために

世界初の「歯生え薬」~無歯症治療のために
 

2024年5月、新聞各紙と歯科業界を賑わせたニュースがありました。それは、世界初となる歯の再生治療薬、いわば歯生え薬の開発についてです。開発元は、京都大学発のベンチャー企業であるトレジェムバイオファーマ株式会社です。

 

歯を生やす薬の開発は世界初の試みで、大きな注目を集めています。こちらも先日ニュースになりましたが、研究グループでは、2024年9月から歯生え薬の治験を開始し、2030年の実用化を目指しています。

 

そんな歯生え薬とは一体どのような薬なのでしょうか?また、誰でも歯を生やすことができるのでしょうか。多くの注目を集めるところです。そこで今回は、世界初の「歯生え薬」についてご紹介します。

歯の欠損について

歯生え薬についてお話しする前に、まず歯がない状態(欠損)について理解を深めていきましょう。歯がない状態は、大きく2つに分けられます。

先天性の歯の欠損

先天性無歯症
 

先天性の歯の欠損とは、生まれつき永久歯が欠けている(足りない)状態をいいます。永久歯が6本以上欠けている場合は先天性無歯症(せんてんせいむししょう)、6本未満の場合は部分性無歯症(ぶぶんせいむししょう)と呼ばれます。ただし、親知らずはカウントされません。

 

先天性無歯症の原因は明らかになっていませんが、遺伝的な要因や、妊娠初期の栄養不足などが考えられています。

後天性の歯の欠損

後天性の歯の欠損は、虫歯や歯周病、外傷などにより、永久歯を失ってしまった状態のことです。

歯生え薬が開発されるまで

さて、いよいよ今回のメインテーマである世界初の歯生え薬についてお話しします。

先天性無歯症とUSAG-1の発見

USAG-1の発見
 

上でお話しした、生まれつき永久歯の数が6本以上少ない先天性無歯症には、USAG-1(Uterine sensitization associated gene-1)という遺伝子が関係していることがわかっています。この遺伝子には、歯の成長を抑制する働きがあります。

 

私たちの体の中では、歯が生えるための準備がされていますが、USAG-1がその働きを邪魔してしまうと、新たな歯が生えてくることはありません。

 

歯生え薬を開発したトレジェムバイオファーマ社では、このUSAG-1遺伝子の働きを抑えることができれば、歯を生やすことができるのではないかと考えたのです。

開発の壁

歯生え薬の開発の壁
 

USAG-1遺伝子を抑える薬を開発するためには、USAG-1を人工的に合成する必要があります。しかし、これが非常に困難で、研究は長らく難航していました。

 

苦労を重ねた研究の末、2017年に大阪大学でUSAG-1を合成することに成功します。これが開発のブレークスルーとなり、歯生え薬の開発が一気に進むことになったのです。

歯生え薬の誕生

歯生え薬の誕生
 

先天性無歯症の原因となる遺伝子、USAG-1の働きを抑えるために作られたのが、USAG-1中和抗体という抗体製剤です。中和抗体とは、特定のタンパク質を狙い撃つ働きを持ち、狙ったタンパク質の活性を無くしてしまう効果があります。

 

トレジェムバイオファーマ社では、USAG-1中和抗体をマウスやフェレットに投与する実験を行いました。すると、マウスもフェレットも歯が生えてきたのです。

 

先天性無歯症に関係する遺伝子は、マウスとヒトで共通しているところがあります。そこで、マウス用に作られたUSAG-1中和抗体を、人間にも使えるように改良を加え、ついに世界初となる歯生え薬が誕生することとなりました。詳しくはトレジェムバイオファーマの研究開発で述べられていますので、併せてご参照ください。

歯生え薬のこれから

先天性無歯症の治療への応用

歯生え薬のこれから:先天性無歯症の治療への応用
 

歯生え薬であるヒトUSAG-1中和抗体は、毒性の有無を調べる予備毒性試験がすでに終了しています。冒頭でも触れましたが、トレジェムバイオファーマ社では、USAG-1中和抗体を、先天性無歯症の方の治療に応用しようという方針で、現在、臨床試験(治験)の段階に進んでいます。

 

そして第一段階として2030年に先天性無歯症の方に、第二段階として2033年に永久歯欠損数が6本歯未満の部分無歯症への実用化を予定しているそうです。

後天性の歯の欠損への応用

歯生え薬のこれから:後天性の歯の欠損への応用
 

今回開発された歯生え薬は、先天性無歯症や部分無歯症など、生まれつき歯が欠損している状態を治療するための薬です。

 

トレジェムバイオファーマ社では、歯生え薬の開発をさらに進め、将来的には虫歯や歯周病など、後天的に歯を失った場合の治療にも応用していくことを考えています。

 

人間の歯は、二生歯性(にせいしせい)と呼ばれ、乳歯の次に永久歯に生え変わりますが、いったん永久歯が生えると、その次に生える歯はありません。

 

ところが、中には過剰歯(かじょうし)という余分な歯が生えてくる人がいます。これは、本来なら消失するはずの、永久歯の次に生える歯の種が残っていて、それが活性化されたためと考えられています。

 

トレジェムバイオファーマ社は、この仕組みに着目し、失われた永久歯の代わりに歯を生やすことができないかと構想しているそうです。もし、この研究が成功すれば、世界初の画期的な治療法となり、今の歯科治療そのものが根本から変わるかもしれません。

ポラリス歯科・矯正歯科は先進的な治療の知見拡充にも努めています

ポラリス歯科・矯正歯科は先進的な治療の知見拡充にも努めています
 

歯を失ってしまった場合、現在では入れ歯ブリッジインプラントなどが治療の候補に挙がります。これらも優れた治療法ですが、歯生え薬が成功すれば、本物の歯が生えてくるので、今の歯科治療の革命が起こるくらいのインパクトがあると言えるでしょう。

 

ポラリス歯科・矯正歯科は、北海道大学歯学部の臨床教授も務める千田理事長が率いる医療法人社団 千仁会に所属し、先端の歯科医療についても、様々な知識を常にキャッチアップしています。歯生え薬の実用化はまだですが、患者さんにより良い治療を提供するために、ポラリス歯科・矯正歯科は努力を惜しみません。

 
医療法人社団 千仁会は、北海道に6医院を展開する総合歯科グループです。幅広い知識と技術を持った多くの専門歯科医が在籍し、チーム医療で総合的な歯科治療を実現しています。
 

誰もが笑顔で食事を楽しめる未来。そんな未来が、新たな歯科治療によって現実になるかもしれないのです。歯生え薬の研究開発の進展からも、ますます目が離せませんね。

 

そんな未来を待つ間にも、私たちにはできることがあります。毎日の歯のケアを大切にし、お口の健康を守り、QOL(Quality of Life)を豊かに保っていきましょう。もし、歯に関するお悩みや不安があれば、ぜひポラリス歯科・矯正歯科にご相談ください。