虫歯治療
削らない虫歯治療~ドックスベストセメント

「虫歯の治療は、歯を削るもの…」そう思っていませんか?
たしかに虫歯になってしまった部分には、虫歯菌(ミュータンス菌など)が潜んでいます。このため、虫歯部分を削って取り除き、進行を食い止めなければなりません。
ただ、虫歯部分とはいえ、歯を極力削りたくないという方ももちろんいらっしゃいます。そのような方の治療法の候補となるのが、虫歯を削らずに治すドックスベストセメントです。今回は、このドックスベストセメントについてご紹介します。
ドックスベストセメントとは?

ドックスベストセメントは、アメリカで開発された、銅イオンと鉄イオンを主成分とする歯科用のセメントです。その名前の由来は、アメリカの歯科医師であるドック・ホリデー氏(本名:ジョン・ヘンリー・ホリデー)と言われています。
従来の虫歯治療では、虫歯になった部分を完全に除去することが原則でした。しかし、ドックスベストセメントに含まれる銅イオンと鉄イオンには強い殺菌力があり、虫歯菌を減少させる効果が期待できます。
虫歯の程度や状態によっては、虫歯菌を完全に除去せずに、セメントを詰めることで無菌化することができるのです。また、虫歯によってダメージを受けた歯の組織(象牙質)の再石灰化を促す効果も期待できるとされています。
ドックスベストセメントの対象となる虫歯
ただし、ドックスベストセメントはあらゆる虫歯に使える治療法ではありません。

虫歯は、上の図のように進行具合からC1〜C4の4段階に分類されています。
- C1:エナメル質だけの虫歯
- C2:エナメル質直下の象牙質までの虫歯
- C3:歯の神経まで進んだ虫歯
- C4:根だけになった虫歯
このうち、ドックスベストセメントで治せるのはC1とC2の虫歯となります。
ドックスベストセメントの治療の流れ
ドックスベストセメント治療は、通常の虫歯治療とは異なるアプローチで行われます。ここでは、一般的な治療の流れを順を追ってご説明します。
①虫歯の一部を除去する
ドックスベストセメント治療は、虫歯を完全に除去しない場合もありますが、セメントを詰めるためのスペースを確保したり、感染源を減らしたりするために必要最小限の範囲で虫歯を除去することがあります。
②ドックスベストセメントの充填

虫歯を除去した部分(または虫歯が残っている部分)に、ドックスベストセメントを詰めます。ドックスベストセメントを詰めた後、その上を別の種類のセメント(仮封材)や仮の詰め物でしっかりと密閉します。
③経過観察(6ヶ月以上)

ドックスベストセメントの効果が現れるまでには、少なくとも6ヶ月程度の期間が必要です。この間は定期的に歯科医院を受診し、経過を観察します。レントゲン撮影などを行い、歯の状態や再石灰化の進行具合などを確認します。
④詰め物・被せ物の装着

ドックスベストセメントの効果が十分に現れ、歯が再石灰化し、硬くなったことが確認できたら最終的な詰め物や被せ物を装着します。
ドックスベストセメントのメリット
ドックスベストセメント治療は、通常の虫歯治療にはない、いくつかの優れた特長があります。ここでは、主なメリットを7つ紹介します。
歯を削る量が少ない

冒頭でも触れたように、通常の虫歯治療は、虫歯に侵された部分を完全に除去する必要がありました。しかしドックスベストセメントを使って虫歯を治す場合、削るのは虫歯の部分を少しだけです。虫歯の一部を残すくらいですから、健全な箇所はもちろん削ることはありません。
歯の健康な部分を一切減ることがないのは、ドックスベストセメントの最大のメリットです。
治療中の痛みが少ない

ドックスベストセメントの治療は、虫歯を少し取り除くだけですので、治療中に痛みがほとんど出ません。
麻酔を使用せずに治療できるため、麻酔注射の痛みや不快感が苦手な方にも、検討しやすい治療法と言えるでしょう。
歯の神経を残せる

歯の神経は「歯髄(しずい)」といい、神経だけでなく血管も含まれており、栄養や酸素、免疫細胞などを受け取っています。
大きな虫歯の治療では、歯髄を取り除く根管治療をしていましたが、歯髄を失うと歯は栄養を受け取ることができません。そのため、歯はもろくなり、寿命が短くなる可能性があります。
ドックスベストセメントは、歯髄を残せる可能性が高く、歯を長持ちさせるメリットがあります。
効果が長く続く

ドックスベストセメントから放出される成分は、半永久的に効果が持続すると言われています。時間をかけて歯の内部にじっくりと浸透し、虫歯によってダメージを受けた歯の組織を強化して、再石灰化を促進する効果が期待できます。
安全性が高い

ドックスベストセメントの主成分は、天然ミネラルです。そのため、体への負担が少ないと考えられています。ただし、金属アレルギーをお持ちの方、特に銅アレルギーの方は注意が必要です。
通院回数が少ない

ドックスベストセメントは、虫歯を少し取り除き、セメントを詰めるというシンプルな処置で完了します。そのため、従来の治療法に比べて通院の回数を少なくできる可能性があります(通常2~3回程度)。
虫歯の再発リスクが少ない
普通の虫歯の治療では、詰め物や被せ物と歯の隙間から虫歯菌が侵入し、虫歯が再発(二次う蝕)することがあります。
ドックスベストセメントは、セメントから放出されるミネラル成分の殺菌効果により、二次う蝕のリスクを低く抑えられます。
ドックスベストセメントのデメリット
多くのメリットがあるドックスベストセメントですが、注意点やデメリットと感じられる可能性のある点もあります。
保険適用外の治療になる

ドックスベストセメントは、保険診療に採用されていません。ドックスベストセメントを使った治療を受ける場合は、自費診療になりますので、治療費が普通の虫歯治療と比べると高額です。
また、ドックスベストセメントを使用した後の詰め物や被せ物も、基本的には保険適用外となります。
治療期間が長い

ドックスベストセメントは、セメントを歯に塗ってから効果が出るまで、少なくとも6ヶ月以上かかります。
虫歯菌の殺菌や歯の再石灰化には、ある程度の時間が必要となるため、通院回数は少なくても、全体の治療期間は長くなる傾向があります。
一般的な虫歯治療(例えば、1~2回の通院で完了するコンポジットレジン修復など)と比較すると、この点はデメリットと感じられるかもしれません。
受けられる歯科医院が限られている
ドックスベストセメントは、どの歯科医院でも行なっている治療法ではありません。ドックスベストセメントを希望する方は、通いやすい地域の中で、この治療を採用している歯科医院を探す必要があります。
深すぎる虫歯には使えない

先ほどお伝えしましたが、ドックスベストセメントの対象となるのはC1~C2の虫歯です。すでに歯の神経にまで達してしまった深い虫歯(C3)や、ズキズキと激しい痛みがある場合は、ドックスベストセメント治療の適応外となることがほとんどです。
この場合は、神経の治療(根管治療)や抜歯が必要となることもあります。
根管治療については下記のコラムで詳しく解説しております。
ご自身の歯を長く健康に保つために

今回は、ドックスベストセメントを使った虫歯治療について解説しました。ドックスベストセメントなら、歯をほとんど削ることなく、神経も残せるうえ、虫歯の再発もほとんどないので、歯の健康にとって大きな効果を発揮します。
「歯をできるだけ削りたくない」「神経を残したい」という思いは、多くの方が抱く願いです。ドックスベストセメント治療は、そのような願いに応えられる可能性を秘めた選択肢の一つと言えるでしょう。
ポラリス歯科・矯正歯科では、患者さんご自身の歯の健康を長く保つことを大切に、一人ひとりのお口の状態やご希望に合わせた治療法をご案内しています。
コンポジットレジン修復やセラミック治療のほか、MI(ミニマルインターベンション:歯を削る量を可能な限り減らし、健康な部分を可能な限り残す治療法)についても、それぞれのメリット・デメリットを丁寧にご説明いたします。
「自分の歯を大切にしたい」「できるだけ長く健康な歯を保ちたい」とお考えの方や、虫歯治療に関する疑問や不安をお持ちの方も、ぜひ一度、札幌駅すぐのポラリス歯科・矯正歯科にご相談ください。