歯の治療全般
お口の中に症状が出るウイルス疾患とは?~はしか(麻疹)、帯状疱疹、ヘルペス…
新型コロナウイルス感染症が流行して以降、皆さんのウイルス感染に対する関心や、予防についての意識がいっそう強くなったのではないでしょうか。
最近でも、多くのメディアが報じているとおり、日本では2015年に国内からは排除できたとされる「はしか(麻疹)」が、外国からの帰国者から見つかり、再度国内で感染が広まるのではないかと懸念されています。はしか(麻疹)の感染は世界的にも拡大しており、WHO(世界保健機関)も、コロナ禍中には10万人以下だった感染者数が、昨年は30万人にまで増加していると警鐘を鳴らしています。
これらウイルス性の疾患は、舌や歯茎、頬の内側など、お口の中に症状が出るものがあります。総称して口腔粘膜疾患(こうくうねんまくしっかん)と呼びますが、今回は、そんなお口の中に症状が出るウイルス性の様々な疾患について、解説したいと思います。
ウイルス性の口腔粘膜疾患
症状
お口の中に現れる、ウイルス感染症で最も一般的な症状は「水疱(すいほう)」です。水疱とはいわゆる水ぶくれのことで、プクッと膨れている部分の中に水が溜まっている状態です。ヤケドの時によく見られる症状ですね。
この水疱が唇の周り、歯茎や喉の奥に生じることがあります。また、この水ぶくれが破れて、口内炎のようになってしまうこともあります。
ウイルス感染のため、風邪をひいた時と同じように発熱したり、リンパ節の腫れが出たり、全身の疲労感が生じたりといった症状も出ます。
疾患の種類
お口の中に症状が生じるウイルス疾患としては、
- ヘルペス
- 帯状疱疹(たいじょうほうしん)
- ヘルパンギーナ
- 手足口病
- はしか(麻疹)
が一般的です。詳細については後述しますが、皆さんも一度は聞いたことのある病気ではないでしょうか。あるいは、実際にかかってしまった経験がある方もいらっしゃるでしょう。
どんな人が感染しやすいのか
では、これらの病気はどのような人がかかりやすいのでしょうか。結論から言うと、誰でもかかる可能性がある病気です。しかし一般的には、子供や高齢者がかかりやすいのが特徴です。
これは、子供や高齢者の免疫能力が未成熟だったり、弱っているのが原因です。体の中の免疫は、色々な病原体に暴露されるごとに強くなっていきますが、過労やストレスによって、本来の能力を十分に発揮できない時もあります。
このように、本来の免疫能力が発揮できず、疾患に感染しやすい人のことを、専門用語でコンプロマイズドホスト(compromised host)と言います。子供や高齢者はコンプロマイズドホストに分類されるため、健康な成人よりも、これらのウイルス感染症にかかりやすくなります。
ただし、健康な成人はかかりにくいというだけで、全くかからないわけではありません。疲労やストレスが蓄積されていると免疫能力が低下し、これらの病気にかかることもあるため、注意が必要です。
お口の中に症状が出るウイルス疾患の種類
ではここからは、お口の中に症状が出るウイルス疾患の種類を挙げていきましょう。具体的な症状の写真は、日本口腔外科学会のページにありますので、興味のある方はご参照ください。少しでも気になることがあれば、近くの歯医者さんに相談しましょう。
ヘルペス
まずはヘルペス(Herpes)です。このヘルペスという名称は、聞いたことがある人も多いのではないでしょうか。ヘルペスは単純ヘルペスウイルスというウイルスが原因の感染症です。
初めてこのウイルスに感染した場合、発熱や疲労感があり、その後にお口の中に症状が生じます。具体的には、歯茎や唇周囲に水疱ができ、それらが破れることで接触痛(触ったり、物が触れたりした時の痛み)が生じます。これによって、食事が摂りにくくなることがあります。
多くの場合、小児期に初めて感染しますが、近年では、成人での初感染も増えているという報告もあります。症状は2週間ほどで落ち着きますが、ヘルペスウイルスは、良くなってからもウイルスが神経に潜み続けるという特徴があり、免疫が弱った時に再度症状が出ることがあります。
帯状疱疹(たいじょうほうしん)
2つ目は帯状疱疹(Shingles)です。こちらも聞いたことがある人も多いのではないでしょうか。「子供の水疱瘡(みずぼうそう)、大人の帯状疱疹」と呼ばれる疾患です。水疱瘡と帯状疱疹の原因は、同じ水痘(すいとう)・帯状疱疹ウイルス(VZV:Varicella Zoster Virus)です。
こちらもヘルペス同様、一度かかった後、ウイルスが体の中に潜み続けているという特徴があり、実に日本の成人の9割以上の体内に存在するため、大人になっても症状が出ることがあります。
水痘・帯状疱疹ウイルスは神経の中で感染を広げるので、神経に沿った部分に水疱ができるのが特徴です。また、これによって神経が傷ついてしまい、強い痛みが生じます。
1ヶ月程度で治癒しますが、神経が傷んだ状態が長く続くため、帯状疱疹が治った後も、強い疼痛(とうつう:うずくような痛み)が出ることもあります。この疼痛のことを専門的には帯状疱疹後神経痛(PHN:Postherpetic Neuralgia)と呼びます。
また、お口の周囲には顔面神経と三叉神経(さんさしんけい)という大きな神経が通っていますが、帯状疱疹はこれらの神経に沿って症状が出ます。お口の中や唇、顔面周囲で「水疱ができては破れる」という状態を繰り返してしまうと、場合によっては神経麻痺が生じることもあります。
ヘルパンギーナ
3つ目はヘルパンギーナ(Herpangina)です。これは1歳~4歳以下の小児によく見られます。お子さんがいらっしゃる親御さんなら、よくご存知かもしれませんね。
ヘルパンギーナは、エンテロウイルスやコクサッキーウイルスが原因で、のどぼとけの部分に小さな水疱ができ、これが破れることで、強く飲み込む時に痛みが生じます。
また、ヘルパンギーナはいわゆる夏風邪のため、発熱や食欲不振などの症状も伴います。通常、6月から7月に流行しますが、2~3日で熱は下がり、1週間程度で治癒します。
手足口病
4つ目は手足口病(HFMD:Hand, Foot and Mouth Disease)です。こちらもお子さんによく見られる夏風邪の一つです。手足口病の原因もエンテロウイルスやコクサッキーウイルスであり、感染するのは5歳未満のお子さんが大半です。
手足口病は、口の中だけでなく、手の平や足の裏にも小さな赤い発疹や水疱ができるのが特徴です。ただ、ほとんどは軽症なので10日程度で治癒します。
はしか(麻疹)
最後は、冒頭でも触れたはしか(麻疹, Measles)です。はしか(麻疹)は、両側の頬の内側に小さな白いぶつぶつができるのが特徴です。この白いぶつぶつを、専門的にはコプリック斑(はん)と呼びます。
発熱があり、お口の中にこのような症状があれば、はしか(麻疹)が疑われます。特にお口の中が痛いといったことはありませんが、発熱が著しいため、すぐに対処が必要です。また、感染力は極めて強く、新型コロナウイルスの比ではないため、ワクチン未接種の方は接種を検討しましょう。
ウイルス性の口腔粘膜疾患の対応と予防法
まず歯科医院を受診
これらの疾患にかかってしまったのが疑われる場合は、すぐに歯医者さんで診てもらいましょう。ウイルスによる感染症なので、対象となるウイルスを排除する薬剤が有効な場合があります。
特にヘルペスや帯状疱疹には有効ですので、歯科医院に相談してください。症状によっては、皮膚科を紹介されるかもしれませんが、専門機関で適切に治療してもらうことが大切です。
ウイルスに感染する時は、ご自分の免疫が弱っている時です。体が休息を欲しているサインですから、歯科医院での対処とともに、しっかりと栄養補給して、ゆっくりと休むようにしましょう。
また、お口の中に症状が生じると、飲み込んだ時の痛みもあるかもしれませんが、できるだけ水分補給を心掛けてください。脱水症状になってしまっては、治りが悪いだけでなく、他の疾病につながることもあるため、水分はしっかり摂るようにしましょう。
ウイルス疾患にならないためには
人間には本来ウイルスと戦う能力、すなわち免疫が備わっています。この免疫をできるだけ強く保っておくことが大切です。日々の運動や十分な栄養補給を行い、きちんと休息も取ることで、ウイルスに感染しづらい体作りを心掛けてください。
また、近年の研究では、口内環境が良くないと免疫機能の低下を招くという報告もあります。お口の中を常に清潔に保っておくことは、虫歯や歯周病の予防だけでなく、全身の健康にも役立ちます。
お口の中を清潔に保つため、毎日歯磨きを欠かさない人も多いと思いますが、自分では磨きにくい部分もあるため、歯科医院で定期的にPMTC(プロフェッショナル・メカニカル・トゥース・クリーニング)などの専門的なケアを受けるのがおすすめです。お口の中の状態を健全に保つのは、身体全体の健康にも寄与しますから、歯医者さんにきちんと診てもらう習慣をつけましょう。
お口のトータルケアはポラリス歯科・矯正歯科に
今回は、お口の中に症状が生じるウイルス疾患についてお話ししました。お口の中に何か異常が生じた時に、相談できる歯医者さんがいることは、皆さんの健康を増進するのにとても役立ちます。
ポラリス歯科・矯正歯科は、医療法人社団 千仁会の専門医が在籍し、各種治療に加え、患者さんのQOL向上に貢献するお口のトータルケアを提供しています。お口に関するお悩みは、どのようなことでもポラリス歯科・矯正歯科にご相談ください。